中国の性ビジネスの現状:法律で禁止なのに、なぜなくならないのか
中国では、売春も買春も法律で禁止されています。それでも、カラオケ店やマッサージ店、ホテル、そしてスマートフォンのアプリを通じて、性ビジネスは形を変えながら存在し続けています。この記事では、中国の性ビジネスをめぐる歴史と法律、取り締まりの実態、そして中国を訪れる日本人が知っておくべきリスクを解説します。
「一度は消えた」売春
中華人民共和国の成立直後、新政府は売春を旧社会の悪として一掃する政策を進めました。1949年には北京で妓院(売春宿)が一斉に閉鎖され、女性たちは収容施設で教育や職業訓練、性感染症の治療を受けたとされます。1950年代のうちに、公然と営業する売春はほぼ姿を消し、政府は「売春を根絶した」と宣言しました。
ところが、1978年に始まる改革開放政策で経済が急成長し、人の移動が活発になると、売春は再び広がり始めます。農村から都市へ出稼ぎに来た若い女性、急速に豊かになった富裕層やビジネス客の存在が、その背景にあったといわれています。
法律ではどう扱われているか
現在の中国では、売春と買春はどちらも違法です。主な処罰は次のとおりです。
- 売る側・買う側:治安管理処罰法により、10日以上15日以下の行政拘留の対象になり、5000元以下の罰金が併科されることもあります(軽い場合は5日以下の拘留か1000元以下の罰金)。刑事罰ではなく行政罰ですが、警察の判断で身柄を拘束されます。2026年1月に施行された改正法でも、この処罰の枠組みは維持されています
- 組織する側:売春を組織する、強制する、場所を提供する、あっせんするといった行為は刑法の犯罪で、重い場合は長期の懲役刑になります
かつては、売春・買春をした人を最長2年間施設に収容して「教育」する「収容教育」という制度がありましたが、裁判を経ずに自由を奪う制度だとして批判が強まり、2019年に廃止されました。
形を変えて存在する性ビジネス
中国の性ビジネスは、表向きは別の業種の看板を掲げて営業していることがほとんどです。
- KTV(カラオケ)・ナイトクラブ:接客する女性がつく高級店の一部で、店外での性的サービスがあっせんされるとされます
- サウナ・洗浴センター:大型の入浴施設の中で、マッサージの名目で性的サービスが提供される例が、たびたび摘発されています
- マッサージ店・足つぼ店・理髪店:街角の小さな店が、実際には売春の場になっているケースがあります
- オンライン:近年は、SNSやメッセージアプリ、出会い系アプリを通じた個人間の取引が主流になりつつあり、取り締まりが難しくなっています
繰り返される「掃黄」キャンペーン
中国当局は、売春やポルノを一掃する「掃黄(サオホワン)」と呼ばれる取り締まりキャンペーンを定期的に行っています。中でも有名なのが2014年の広東省東莞(ドングァン)市での大規模摘発です。「性の都」とまで呼ばれた東莞の実態を国営テレビが報じたことをきっかけに、多数の店舗が一斉に摘発され、大きなニュースになりました。
しかし、キャンペーンが終わると別の形で復活する、というサイクルが続いているとも指摘されています。取り締まりが厳しくなるほど、性ビジネスはオンラインや個人間の取引に移り、見えにくくなっていきます。
需要がなくならない背景として、長く続いた一人っ子政策の影響もあって男性の人口が女性より多い構成になっていることや、地方から都市への大規模な人口移動で、家族と離れて暮らす単身の男性労働者が多いことを挙げる研究者もいます。法律による禁止だけでは解決しにくい、社会構造の問題でもあるのです。
香港・マカオ・台湾はどう違う?
- 香港:売春そのものは違法ではありませんが、売春宿の経営や公共の場での勧誘は違法です。ひとりで部屋を借りて営業する形態は、法律上の「売春宿」に当たらないとされてきました
- マカオ:売春そのものは犯罪とされていませんが、他人に売春をさせることや、売春の斡旋・管理は刑事罰の対象です
- 台湾:2011年の法改正で、自治体が指定する「特定区域」内での売買春を処罰しない制度ができましたが、指定に踏み切った自治体はなく、事実上は禁止が続いています
性感染症の状況
中国では、性ビジネスの再拡大とともに、梅毒やHIVなどの性感染症も増加してきました。中国政府はHIV対策として、セックスワーカーへの検査やコンドームの普及にも取り組んでいますが、売春が違法であるために支援が届きにくいという課題があります。法律で禁じられた世界ほど、感染症対策は難しくなるのです。
中国を訪れる日本人へ
- 外国人であっても、中国の法律が適用されます。買春で摘発されれば拘留や罰金のほか、国外退去や再入国の制限を受ける可能性があります
- ホテルの部屋に差し込まれるカードや、路上・アプリでの勧誘に応じると、美人局(つつもたせ)やぼったくりなどのトラブルに巻き込まれるおそれもあります
- 性的な接触があった場合は、コンドームを使っていても性感染症のリスクはゼロではありません
こんな症状があれば受診を
海外での性的な接触のあと、排尿時の痛み、尿道からの膿、性器や口のできもの、体の発疹、長引く発熱やのどの痛みなどが出たら、帰国後すぐに泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先と接触の内容を伝えてください。症状がなくても、適切なタイミングで検査を受けることをおすすめします。