CULTURE

エジプトの性風俗事情:1961年の売春禁止法と、「放蕩」の罪が向けられる人々

執筆・監修:Dr.Taro(性感染症内科医)|2026年10月9日

ピラミッドで知られるエジプトでは、1961年に制定された売春と放蕩(フジュール)の防止に関する法律によって、売春は禁止されています。常習的に売春や放蕩を行った人は、拘禁刑と罰金の対象です。この法律の特徴は、「放蕩」という言葉の解釈が広く、性的少数者の取り締まりにも使われてきたことです。この記事では、エジプトの制度と、その運用をめぐる問題を、人権団体や法律家団体の資料をもとに解説します。

法律の基本

「放蕩」という言葉の広さ

法律の中の「放蕩(フジュール)」という言葉は、はっきりとした定義がありません。エジプトの裁判所は、この言葉を、男性どうしの性的な関係を指すものとして解釈してきました。その結果、この法律は、売春の取り締まりだけでなく、同性愛者やトランスジェンダーの人々を逮捕・処罰するために使われてきました。

人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチやアムネスティ・インターナショナルは、2000年代以降、ナイル川の船上パーティーでの大量逮捕や、出会い系アプリを使ったおとり捜査などを通じて、性的少数者が逮捕・起訴されてきたことを報告しています。売春を取り締まるための法律が、性的少数者を罰するための道具として使われているのです。

売る側が罰せられ、買う側は罰せられない

法律の運用では、性を売る女性が処罰される一方で、客の男性は証人として扱われ、処罰を免れることが多いとされます。この非対称は、売春を「女性の不道徳」とみなす考え方を反映していると、女性の権利を訴える団体から批判されています。貧困の中で性の売買に関わらざるをえない女性が、最も重い負担を負わされているのです。

「夏の結婚」と観光

エジプトでは、湾岸諸国などから来た裕福な男性が、貧しい家庭の若い女性と短期間だけ結婚し、帰国前に離婚する「夏の結婚」や「観光結婚」が、社会問題として報道されてきました。未成年の少女が結婚させられる例もあり、人身取引や子どもの性的搾取の一つの形として、国際機関や支援団体が警告してきました。結婚という形をとるため、売春として取り締まることが難しいという問題があります。

インターネット時代の取り締まり

近年は、SNSに動画を投稿した女性たちが、「家族の価値観を損なう」ことや、ネットを通じた売春の勧誘などを理由に逮捕・処罰される事件も起きています。人権団体は、こうした取り締まりが、女性の表現の自由を不当に制限していると批判しています。インターネットの普及によって、性に関する取り締まりの対象は、街の中からネットの中へと広がっています。

法律が生む二重の被害

エジプトの売春禁止法の運用は、二重の被害を生んでいるといえます。一つは、貧困などの事情から性の売買に関わる女性が、処罰と社会的な差別の両方を受けることです。もう一つは、売春とは関係のない性的少数者が、「放蕩」の罪で逮捕され、取り調べの中で屈辱的な扱いを受けることです。人権団体は、逮捕された人に対して強制的な身体検査が行われた例も報告しています。法律の言葉のあいまいさが、取り締まりの対象を際限なく広げてしまう危険を、エジプトの例は示しています。

性的少数者や女性の権利を守る観点からも、法律の見直しが求められています。

法律の言葉の重さを考えさせられます。

日本との比較

日本の売春防止法も、売る人や買う人を直接は処罰せず、勧誘やあっせん、場所の提供を処罰しています。エジプトは、常習的な売春そのものを拘禁刑の対象にしている点で、日本よりも売る側に厳しい制度です。また、「放蕩」という言葉が性的少数者の取り締まりに使われている点は、日本にはない大きな問題です。

旅行者が知っておきたいこと

医師からひとこと

どの国でも、性的な接触ではコンドームの使用が予防の基本です。海外での性的な接触のあとに、排尿時の痛み、性器や口のできもの、発疹などが出たら、帰国後に泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先を伝えてください。

参考資料

T
Dr.Taro

性感染症内科医。YouTube「性病医 Dr. Taro」で性の健康について発信中。