CULTURE

マルタの性風俗事情:「合法だが規制なし」か「事実上の禁止」か、改革が止まった島国

執筆・監修:Dr.Taro(性感染症内科医)|2026年10月9日

地中海に浮かぶ島国マルタは、カトリックの影響が強く、EUの中でも性や家族をめぐる価値観が保守的な国として知られてきました。売春そのものを直接禁じる規定はないものの、公共の場所での勧誘や、売春宿の経営、売春のための部屋の貸し出しなど、売春に関わる多くの行為が違法とされています。2020年には政府が売春を非犯罪化する改革案を打ち出しましたが、強い反対にあい、議論は止まったままです。この記事では、マルタの制度と改革をめぐる論争を、欧州議会の調査や議会の資料、報道をもとに解説します。

法律の基本

「合法」か「禁止」か、見方が分かれる理由

欧州議会の調査は、マルタについて注目すべき注釈をつけています。研究者や専門家の中には、マルタを売春を禁止する国に分類する人もいるというのです。その理由は、売春を直接定めた規定はないものの、公共の場所や私的な場所でうろつくことを処罰する規定などによって、売春が間接的に禁じられているとみることもできるからです。

一方、調査は、刑法が売春に関連する特定の行為だけを処罰し、自発的な売春そのものには触れていないことから、売春自体は違法ではないと結論づけています。いずれにしても、売る人が自分の部屋以外で働く方法はほとんどなく、働く人が置かれた状況は「禁止」に近いものだといえます。

2020年の改革案と論争

2020年、当時の政務次官が、売春に関する法律の改革案を発表しました。技術委員会がまとめた案は、売る人を処罰の対象から外し、働く人を保護することを柱とするものでした。政府は公開協議を行い、多くの市民団体や非政府組織が意見を寄せました。

しかし、この改革案には激しい反対が起きました。人身取引や売春に反対する団体の連合は、改革が売春を「ほかの仕事と同じように」正当化し、人身取引の被害者を守る仕組みや、売春から抜け出すための支援が不十分だと批判しました。マルタを「セックスツーリズムの拠点」にしかねないという警告も出されました。一方で、ヨーロッパのセックスワーカーの団体や性的少数者の権利団体は、非犯罪化を支持する声明を出しました。

政府は、協議の結果をふまえて改革案を修正していると説明しましたが、2023年の報道の時点でも法改正には至っておらず、改革は事実上止まっています。

マッサージ店と「ジェントルマンズクラブ」

マルタでは、表向きはマッサージ店やジェントルマンズクラブとして営業している店で、性的サービスが提供されていることが問題として報じられてきました。こうした店では、外国から来た女性が働いていることも多く、人身取引の温床になっているのではないかという懸念が繰り返し示されています。法律が売春の周辺の行為を広く禁じているため、実際の性の売買は見えにくい形で行われ、働く人の状況を把握することが難しくなっています。

改革が問いかけたもの

マルタの改革論争は、性の売買をめぐる世界的な対立をそのまま映し出しています。働く人を処罰しないという点では、非犯罪化を求める側も、北欧モデルを求める側も一致しています。対立しているのは、客や第三者をどう扱うか、性の売買を「仕事」として認めるかどうか、という点です。この対立は、マルタだけでなく、多くの国で答えが出ていない問いです。

マルタの議論の行方は、ヨーロッパのほかの国々にとっても参考になるはずです。

今後の動きが注目されます。

日本との比較

マルタと日本は、売春そのものを直接処罰しない一方で、勧誘や売春宿、場所の提供を処罰する点で、構造がよく似ています。違いは、日本には性交を伴わない性的サービスを風営法の届出制で認める仕組みがあるのに対し、マルタにはそうした枠組みがないことです。マルタで議論された非犯罪化の改革は、日本で売春防止法の見直しを考えるうえでも、賛否の論点が参考になります。

旅行者が知っておきたいこと

医師からひとこと

どの国でも、性的な接触ではコンドームの使用が予防の基本です。旅先での性的な接触のあとに、排尿時の痛み、性器や口のできもの、発疹などが出たら、帰国後に泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先を伝えてください。

参考資料

T
Dr.Taro

性感染症内科医。YouTube「性病医 Dr. Taro」で性の健康について発信中。