CULTURE

モンゴルの性風俗事情:1998年からの全面禁止と、鉱山ブームが生んだ性の売買

執筆・監修:Dr.Taro(性感染症内科医)|2026年10月9日

草原と遊牧の国として知られるモンゴルでは、1998年に制定された法律によって、性の売買はあらゆる形で禁止されています。売る人には違反法による罰金が科され、売春をあっせんしたり場所を提供したりすれば刑法で処罰されます。一方で、2000年代以降の鉱山開発ブームの中で、鉱山の町や幹線道路沿いで性の売買が広がったことも報告されてきました。この記事では、モンゴルの制度と実態を、名古屋大学の法学研究誌に掲載された論文などをもとに解説します。

法律の基本

鉱山ブームと性の売買

モンゴルでは2000年代に入ってから、銅や金、石炭などの鉱山開発が急速に進み、外国企業や多くの労働者が鉱山の町に集まりました。こうした町では、鉱山労働者を相手にした性の売買が広がり、性感染症の増加が問題になりました。論文は、2009年ごろに鉱山会社の側から、労働者の間でHIV陽性や性感染症が増えていることを受けて、政府に対策を求める動きがあったことを紹介しています。

また、イギリスの新聞は2019年、冬の厳しい寒さの中で、幹線道路沿いの「売春ゾーン」で女性たちが燃料と引き換えに性を売っている実態を報じました。全面禁止の法律のもとでも、貧困や仕事の少なさから、性の売買に頼らざるをえない人がいることがうかがえます。

どのくらいの人が働いているのか

モンゴルの性の売買についての統計は限られていますが、国連エイズ合同計画に提出された報告では、2012年時点で性の売買に関わる人は約1万9000人と推計されていました。論文は、人口のデータをもとに、2020年には2万3000人を超える女性が関わっている可能性があると試算しています。人口が約350万人の国としては、決して小さな数ではありません。

暴力と健康の問題

全面禁止のもとでは、働く人は警察に被害を届け出ることが難しく、客や周囲の人からの暴力にさらされやすくなります。論文は、モンゴルのセックスワーカーが、身体的な暴行や監禁、武器を使った暴力、性暴力などの被害を受けていることを示す研究を紹介しています。けがや性感染症の治療を受けようとしても、差別を受けることがあるとも指摘されています。

国際的な支援を受けて、セックスワーカーの経済的な自立を支える貯蓄の取り組みなどが試みられましたが、論文によれば、健康状態には一定の改善が見られたものの、暴力の問題はほとんど改善しなかったとされています。論文の著者は、モンゴルが全面禁止から、何らかの形で合法化する方向に転換すべきだと提言しています。

全面禁止の国が抱える矛盾

モンゴルの例は、性の売買を全面的に禁止しても、それを必要とする経済的な事情がある限り、売買はなくならないことを示しています。禁止のもとでは、売買は人目につかない場所で行われ、働く人は法律の保護の外に置かれます。そうなると、暴力の被害を届け出ることも、性感染症の検査を受けることも難しくなります。論文が合法化を提言しているのは、こうした状況を改めるためです。禁止を続けるにしても、少なくとも働く人が医療や支援にアクセスできる仕組みを整えることが、公衆衛生の面からも求められています。

日本との比較

日本の売春防止法は、売春を「してはならない」と定めながら、売る人を直接は処罰していません。モンゴルは、売る人にも罰金を科し、売春に関わる収入を没収する点で、日本よりも売る側に厳しい制度です。一方で、あっせんや場所の提供を処罰する点は共通しています。全面禁止のもとで、性の売買がなくならず、かえって働く人が危険にさらされるという問題は、多くの国に共通しています。

旅行者が知っておきたいこと

医師からひとこと

どの国でも、性的な接触ではコンドームの使用が予防の基本です。海外での性的な接触のあとに、排尿時の痛み、性器や口のできもの、発疹などが出たら、帰国後に泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先を伝えてください。症状がなくても、梅毒やHIVの検査を受けることをおすすめします。

参考資料

T
Dr.Taro

性感染症内科医。YouTube「性病医 Dr. Taro」で性の健康について発信中。