台湾の性風俗事情:「特区」を作れば合法なのに、どこも作らない国
台湾では、2011年の法改正で、自治体が指定した「性交易専区(性取引の特区)」の中でなら、性の売買を罰しないという制度ができました。ところが、それから15年近くがたった今も、台湾のどの自治体も特区を設けていません。結果として、台湾では性の売買は売る側も買う側も罰則の対象という状態が続いています。この記事では、台湾の公娼制度の廃止から、憲法判断、法改正、そして現在に至るまでの流れを、台湾の法令や公的機関の資料をもとに解説します。
公娼制度の廃止(台北市、1997〜2001年)
台湾には、かつて自治体が売春を許可制で管理する「公娼」の制度がありました。台北市では1997年7月、市議会が公娼の管理規則を廃止し、約100人の公娼が突然職を失うことになりました。公娼たちは「生きる権利」を訴えて抗議を続け、2年間の猶予期間が認められて1999年に一時的に営業が再開されましたが、2001年3月、台北市の公娼制度は正式に終わりを迎えました。この抗議運動から生まれた当事者の団体は、その後もセックスワーカーの権利を訴える活動を続けています。
「売る側だけ罰する」は憲法違反(2009年)
公娼制度の廃止後、台湾の社会秩序維護法は、性を売る側だけを処罰し、買う側は処罰しない「罰娼不罰嫖」の規定を置いていました。これに対して、憲法の解釈を担う司法院大法官は2009年11月6日、釈字第666号解釈で、この規定は平等原則に反し違憲であると判断し、2年以内に効力を失うとしました。性を売る側の多くが、経済的に苦しい立場の女性であることも、判断の背景にありました。
2011年の法改正:「特区」以外は売る側も買う側も罰金
この憲法判断を受けて、2011年11月に社会秩序維護法が改正されました。現在の制度は次のとおりです。
- 原則:性の売買をした人は、売る側も買う側も、3万台湾ドル以下の過料(行政罰)の対象になります
- 例外(特区):直轄市や県・市は、条例を定めて、性取引を認める区域(専区)を設けることができます。特区の中で、登録や許可を受けて行う性の売買は処罰されません
- 特区の条件:都市計画区域では商業地域に限るなど、場所に厳しい条件があり、性的サービスを提供する人は登録して許可証を取る必要があります
なぜ特区は作られないのか
制度ができても、特区を設けた自治体はひとつもありません。その理由として、次のような点が指摘されています。
- 「自分の選挙区に売春の特区を作る」ことへの住民の強い反発があり、首長や議員にとって政治的なリスクが大きい
- 場所の条件が厳しく、実際に設けられる場所がほとんどない
- セックスワーカーの側からも、登録して身元を明かすことへの抵抗がある
その結果、台湾の性風俗産業は、マッサージ店やカラオケ、ホテルへの派遣、インターネットを使った個人の取引など、法律の外で営業を続けています。「合法化の道を用意したが、誰も使わない」という、珍しい状況が続いているのです。
取り締まりの実際
特区がない以上、台湾で行われている性の売買は、すべて法律の外で行われていることになります。警察は、マッサージ店やカラオケ店、ホテルへの派遣などの摘発を続けていますが、性の売買をした人への処分は罰金にとどまり、仲介や場所の提供をした人がより重く処罰される、という構造です。インターネットやSNSを使った個人間の取引が増え、取り締まりはますます難しくなっています。
日本との比較
日本と台湾は、どちらも性の売買を法律上は認めていませんが、日本は売る人・買う人に罰則を設けず、性交を伴わない性的サービスを届出制で認めています。台湾は、売る人・買う人の双方に罰金を科しつつ、特区という合法化の道も法律に用意しました。ところが、その道を使う自治体がないために、制度が「絵に描いた餅」になっているのです。法律を作っても、地域の住民の合意や、働く当事者の信頼がなければ、制度は動かない。台湾の例は、性風俗をめぐる政策の難しさをよく表しています。
また、台湾では、性の売買をした人への処分が刑事罰ではなく行政上の罰金(過料)であることも、日本の制度と比べるとわかりやすい違いです。
旅行者が知っておきたいこと
- 台湾では、性を買えば外国人でも罰金の対象になります
- マッサージ店やホテルでの勧誘、SNSでの個人の勧誘に応じると、恐喝や詐欺、美人局などのトラブルに巻き込まれるおそれがあります
- 性的サービスを仲介したり、場所を提供したりすることは、より重い処罰の対象です
医師からひとこと
台湾では性の売買が法律の外で行われているため、働く人が定期的な検査や医療を受けにくい状況があります。法律の建前と実態がずれているところでは、性感染症の予防が後回しになりがちです。海外での性的な接触のあとに、排尿時の痛み、性器や口のできもの、発疹などが出たら、帰国後に泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先を伝えてください。