性のお祭りは世界にある:かなまら祭、田縣神社の豊年祭から、ブータンの男根信仰まで
男性器をかたどった巨大な御神体が街を練り歩く。日本には、そんな「性」をテーマにしたお祭りが今も各地に残っています。海外からの観光客にも人気で、SNSで話題になることもしばしばです。しかし、これらのお祭りの根っこにあるのは、ふざけや悪ふざけではなく、子孫繁栄や五穀豊穣を願う、古くからの真剣な祈りです。この記事では、日本と世界の性にまつわるお祭りと、その背景にある信仰を紹介します。
なぜ性器を祀るのか
人類は古くから、男性器や女性器を、命を生み出す力、豊かな実りの象徴として崇めてきました。日本でも、縄文時代の遺跡から男性器をかたどった「石棒」が数多く見つかっています。子どもが無事に生まれ育つこと、作物が実ること、病気や災いを遠ざけることを、性の力に託したのです。こうした信仰は、日本の民間信仰の中で道祖神や金精様(こんせいさま)などとして受け継がれてきました。
日本の主な性のお祭り
かなまら祭(神奈川県川崎市)
川崎大師の近くにある金山神社で、毎年4月の第1日曜日に行われるお祭りです。鍛冶の神様を祀る神社で、ふいごと男女の和合を重ねた信仰から、子孫繁栄、商売繁盛、そして性病除けのご利益があるとされてきました。江戸時代には、川崎宿の飯盛女(宿場で働いた遊女)たちが性病除けを祈ったと伝えられています。
当日は、男性器をかたどった神輿が練り歩き、中でもピンク色の大きな神輿は名物になっています。近年は外国人観光客が数多く訪れる国際的なお祭りになり、エイズ除けを祈願する人が多い祭りとしても知られるようになっています。性感染症内科医としては、性病除けの祈りが、現代の感染症予防の活動へとつながっている点に、特別な思いを抱くお祭りです。
田縣神社の豊年祭(愛知県小牧市)
毎年3月15日に行われる豊年祭は、木で作られた長さ2メートルを超える巨大な男性器の御神体を、厄年の男性たちが担いで練り歩くことで知られています。五穀豊穣と子孫繁栄を願うお祭りで、御神体は毎年新しく作り替えられます。近くの大縣神社では、女性器を象徴する御神体を祀る豊年祭が行われ、二つのお祭りは対になるものとされています。
おんだ祭(奈良県明日香村)
飛鳥坐神社で毎年2月の第1日曜日に行われる、田植えの所作で豊作を祈るお祭りです。後半には、天狗とお多福が夫婦の契りを演じる、性の営みを表す所作があり、奇祭として知られています。最後に、使った紙が「福の紙」として観客にまかれ、拾うと子宝に恵まれるといわれています。
世界の性のお祭り・信仰
ブータン:家の壁に描かれた男根
ヒマラヤの小国ブータンでは、民家の壁に大きな男性器の絵が描かれている光景を目にします。15〜16世紀に活躍した僧侶、ドゥクパ・クンレーの教えに由来するとされ、魔除けや繁栄のシンボルとして親しまれています。彼にゆかりのある寺院「チミ・ラカン」は子宝祈願の寺として知られ、国内外から多くの夫婦が参拝に訪れます。
ギリシャ:カーニバルの男根祭
ギリシャ中部のティルナヴォスという町では、春のカーニバルの時期に、男性器をかたどったものを掲げて街を練り歩くお祭りが行われてきました。古代ギリシャのディオニュソス信仰にさかのぼるとされる、豊穣を祝う民間の祭りです。
タイ:ロケット祭り
タイ東北部では、雨季の前に手作りのロケットを打ち上げて雨と豊作を祈る「ブン・バン・ファイ」という祭りが行われます。豊穣の祈りと結びついて、性的なモチーフの飾りや仮装が登場することもあります。
アメリカ:フォルサム・ストリート・フェア
サンフランシスコでは、毎年9月に、レザーファッションやSMなどの文化を祝う大規模な野外イベントが開かれます。宗教的なお祭りとは性質が異なりますが、性の多様性を表現する場として、世界中から参加者が集まります。
参加するときのマナー
- お祭りは神事です。御神体や神輿を茶化したり、勝手に触ったりしないでください
- 他の参加者、とくに知らない人を無断で撮影し、SNSに載せない
- 人混みと飲酒による体調不良、熱中症に注意する
- 海外のお祭りでは、その土地の宗教や文化を尊重する
医師からひとこと
性病除けを祈った江戸時代の人々にとって、梅毒などの性感染症は治療法のない、恐ろしい病気でした。現代では、多くの性感染症が検査で見つかり、治療できるようになっています。それでも、日本の梅毒の報告数は高い水準が続いています。お祭りで神様に祈るのも大切ですが、コンドームと定期的な検査という「現代のお守り」も忘れないでください。