海外の風俗へ「出稼ぎ」に行く人たち:日本、東南アジア、中国から、どこへ、なぜ
近年、日本の若い女性が海外の性風俗店に「出稼ぎ」に行き、現地で摘発されたり、入国を拒否されたりするニュースが相次いでいます。しかし、性産業をめぐる国境を越えた人の移動は、日本だけの話ではありません。東南アジアや中国からも、多くの人がよりよい収入を求めて他の国の性産業で働いています。この記事では、誰が、どこへ、なぜ移動するのか、そしてその裏にあるリスクと搾取の実態を解説します。
歴史:「からゆきさん」と「ジャパゆきさん」
日本から海外への性産業の出稼ぎは、新しい現象ではありません。明治から大正にかけて、九州の天草や島原などの貧しい農村から、多くの女性が東南アジアや中国、シベリアなどに渡り、娼婦として働きました。彼女たちは「からゆきさん(唐行きさん)」と呼ばれ、その多くは人買いにだまされたり、家族の借金のために売られたりした人たちでした。
その後、日本が経済的に豊かになると、流れは逆転します。1980年代以降、フィリピンやタイなどから多くの女性が日本に来て、飲食店や性風俗店で働くようになりました。彼女たちは「からゆきさん」をもじって「ジャパゆきさん」と呼ばれました。「興行」の在留資格で来日したエンターテイナーが、実際には接客や性的サービスを強いられる例も多く、2004年にはアメリカ国務省の人身取引報告書で「監視対象」とされ、日本は2005年に「興行」の在留資格の基準を厳しくしました。その結果、フィリピンからの「興行」での入国者は、2004年の約8万3千人から2006年には約8千6百人に激減しました。
現在の日本からの出稼ぎ
2010年代後半から、日本人女性が海外の性風俗店で働くケースが増えているといわれています。主な行き先として報じられてきたのは、オーストラリア、アメリカ、カナダ、香港、マカオ、シンガポールなどです。
- なぜ行くのか:円安で外貨の稼ぎが日本円にすると大きくなること、日本人女性の人気が高く「短期間で高収入」とうたわれること、国内の性風俗の競争が激しいことなどが背景にあるとされます
- どうやって行くのか:SNSや求人サイトを通じて、仲介業者(ブローカー)が渡航や現地の店の手配をするケースが多いと報じられています
しかし、その実態はうたい文句ほど甘くありません。
- ビザの問題:観光目的のビザや渡航認証で入国して働けば、その国の入国管理法違反になります。オーストラリアの一部の州のようにセックスワークが合法な国でも、働く資格のない滞在資格で働けば違法です
- 入国拒否と再入国の制限:アメリカなどでは、空港で入国審査を受けた日本人女性が売春目的を疑われて入国を拒否された例が報じられています。いったん拒否されると、その後長期間にわたって渡航が難しくなることがあります
- 仲介業者による搾取:渡航費や手数料の名目で借金を負わされ、報酬の大部分を取られる、パスポートを預けさせられる、といった被害が報告されています。日本では、約3年間で200〜300人の女性をアメリカ、オーストラリア、カナダなどの売春組織にあっせんしたとされるグループが警視庁に摘発されるなど、仲介業者の摘発が相次いでいます
- トラブルに巻き込まれても助けを求めにくい:違法に働いているため、暴力や賃金の未払いの被害にあっても、警察や大使館に相談しにくい状況に置かれます
東南アジアと中国からの流れ
アジア全体を見ると、性産業をめぐる人の移動は、おおむね「経済的に貧しい国・地域から、豊かな国・地域へ」という方向で起きています。
- タイ、フィリピン、ベトナムから、日本、韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、中東、欧州などへ
- ミャンマー、ラオス、カンボジアから、より経済的に豊かな隣国のタイへ
- ベトナム、ミャンマー、北朝鮮などの国境地帯から中国へ。中国の農村部の男女比の偏りを背景に、「結婚」の名目で女性が売られる問題も国際的に指摘されています
- 中国本土から、香港、マカオ、東南アジア、欧米、オーストラリア、日本などへ。欧米では、マッサージ店の看板を掲げた店で働く中国系の女性が摘発されるニュースが繰り返し報じられています
- 韓国からは、国内で性売買への規制が強化された2000年代以降、日本、オーストラリア、アメリカなどへの出稼ぎが増えたと指摘されています
また、ヨーロッパでは、ルーマニアやブルガリアなど東欧の国から、ドイツやオランダなど西欧の国のセックスワークに移動する流れが大きくなっています(ドイツのFKK)。
「自分の意思」と「人身取引」の境目
国境を越えて性産業で働く人の中には、自分の意思で、条件を理解したうえで働く人もいます。一方で、だまされて連れてこられ、借金や暴力、パスポートの取り上げによって逃げられない状態に置かれる人もいます。後者は人身取引という重大な犯罪です。そして実際には、最初は自分の意思で渡航したのに、現地で条件が変わって搾取される、というように、その境目はあいまいなことが少なくありません。
困ったときの相談先
- 海外にいる場合:現地の日本大使館・総領事館
- 日本国内:警察(緊急時は110番、相談は#9110)、各都道府県の女性相談支援センター
- 「高収入」「海外で短期間」といった求人に応募する前に、仲介業者の実態や現地の法律を必ず確かめてください
医師からひとこと
海外で働くと、言葉の壁や医療費の高さ、違法に働いていることへの不安から、性感染症の検査や治療が後回しになりがちです。帰国したら、症状がなくても一度、性感染症の検査を受けてください。排尿時の痛み、おりものの変化、性器や口のできもの、発疹などがあれば、婦人科や性感染症内科を受診し、海外で働いていたことも伝えてください。責めることはありません。必要な検査を選ぶための大切な情報です。