マスターベーションは体に悪い?よくある誤解と本当に気をつけたいこと【医師が解説】
「しすぎると体に悪い」「ハゲる」「背が伸びなくなる」。マスターベーション(セルフプレジャー)には、昔からたくさんの噂があります。結論からいうと、マスターベーションそのものは、性別を問わずごく一般的な行為で、体に害があるという医学的な根拠はありません。ただし、やり方によっては体のトラブルにつながることもあります。この記事では、よくある誤解と、医師として本当に気をつけてほしいポイントを解説します。
よくある誤解
「しすぎると体に悪い」
何回までなら大丈夫、という医学的な上限はありません。体に痛みや傷がなく、日常生活や仕事、人間関係に支障が出ていなければ、回数そのものを心配する必要はありません。人によって頻度は大きく違い、多いことも少ないことも、それだけで異常ではありません。
「髪が薄くなる」「背が伸びなくなる」「視力が落ちる」
いずれも医学的な根拠はありません。薄毛(男性型脱毛症)は主に遺伝と男性ホルモンの作用によるもので、射精の回数とは関係がないと考えられています。
「精子がなくなる」「出しすぎると子どもができなくなる」
精子は精巣で毎日つくられ続けています。射精の回数が多いと一時的に1回あたりの精液の量が減ることはありますが、将来の妊娠する力(妊孕性)が失われることはありません。
「パートナーがいるのにするのはおかしい」
パートナーがいる人がマスターベーションをするのも、ごく一般的なことです。自分の体の反応を知ることは、パートナーとの性生活にも役立ちます。ただし、気持ちのすれ違いの原因になることもあるので、気になる場合は率直に話し合ってみてください。
健康との関係で分かっていること
男性では、約3万2千人の米国の医療職の男性を追跡した研究で、20代や40代に月21回以上射精していた人は、月4〜7回の人に比べて前立腺がんと診断されるリスクが約2割低かったと報告されています。ただし、これは「関連がみられた」というもので、射精が前立腺がんを予防すると証明されたわけではありません。「健康のためにしなければならない」と考える必要はありませんが、「体に悪いから控えるべき」という根拠もない、と理解してください。
また、リラックスや寝つきがよくなると感じる人もいます。性欲や性的な反応は、ストレスや体調、服用中の薬の影響も受けるため、「最近まったくその気にならない」という変化が続く場合は、体からのサインのこともあります。
本当に気をつけたいこと
1. 清潔な手と道具で
性器や粘膜はデリケートな部位です。手を洗い、爪は短く整えておきましょう。トイを使う場合は、使う前と後に正しく洗うことが大切です(セックストイの正しい洗い方と保管方法)。
2. 強すぎる刺激に慣れない
強く握る、床などに押しつけるといった、強い圧迫による刺激に慣れてしまうと、パートナーとの性行為で十分な刺激を感じにくくなり、射精しにくくなる(腟内射精障害)原因になると指摘されています。妊活を考えている人は、とくに意識しておいてください。刺激の強さは、パートナーとの性行為に近いものを意識するのがおすすめです。
3. 潤滑剤を使う
乾いたまま摩擦を続けると、皮膚や粘膜に小さな傷ができ、ヒリヒリしたり、感染の入り口になったりします。潤滑剤は性別を問わず使えます。迷ったら、刺激の少ない水溶性のものを選んでください。
4. 体の中に入れるのは「そのために作られたもの」だけ
専用の製品ではない日用品を腟や肛門に入れると、傷がついたり、割れたり、抜けなくなったりする危険があります。とくに肛門に入れるものは、根元にストッパー(つば)がある専用の製品を選んでください。抜けなくなった場合は、自分で無理に取り出そうとせず、恥ずかしがらずに医療機関を受診してください。医療者にとっては珍しいことではありません。
「やめられない」と感じたら
マスターベーションの回数が多いこと自体は問題ではありません。ただし、次のような状態が続いている場合は、強迫的性行動症という状態の可能性があります。WHOの国際疾病分類(ICD-11)にも、性的な衝動をコントロールできず生活に大きな支障が出る状態として記載されています。
- やめたい、減らしたいと思っても、何度もうまくいかない
- 仕事や学業、睡眠、人間関係を犠牲にしてしまう
- 楽しさよりも、不安やストレスから逃れるための行動になっている
こうした悩みは、精神科や心療内科で相談できます。「性の悩みで受診していいのか」とためらう人も多いですが、治療やカウンセリングの対象になる、れっきとした健康の問題です。
こんな症状があれば受診を
- 性器に痛み、腫れ、出血、傷が続く
- 精液に血が混じる(血精液症)。多くは自然に治まりますが、繰り返す場合や40歳以上の場合は泌尿器科へ
- 勃起したまま数時間以上治まらない(持続勃起症)。時間がたつと後遺症が残ることがあるので、すぐに救急外来へ
- 腟や肛門に入れたものが取れない
- かゆみ、おりものの変化、排尿時の痛みなど、感染症を疑う症状
マスターベーションは、自分の体を知るための自然な行為です。罪悪感を持つ必要はありません。清潔に、無理のない範囲で、そして気になる症状があれば早めに医療機関に相談してください。