CULTURE

イスラエルの性風俗事情:2020年に北欧モデルを導入、罰金の件数は増えて、また減った

執筆・監修:Dr.Taro(性感染症内科医)|2026年10月9日

中東の国イスラエルは、2020年7月、性的サービスを買うことを違反とし、客に罰金を科す法律を施行しました。売る人は処罰せず、買う人に責任を求める「北欧モデル」を、中東で初めて本格的に取り入れた国です。この法律はもともと5年間の時限立法として始まりましたが、2025年には恒久化の方針が示されました。この記事では、イスラエルの制度と、施行後の運用の実態を、米国議会図書館の法令解説や、イスラエル司法省の国連への報告、報道などをもとに解説します。

売春消費禁止法の基本

導入の背景:人身取引の経験

イスラエルでは1990年代から2000年代にかけて、旧ソ連圏の国々などから女性が連れてこられ、売春を強いられる人身取引が深刻な問題になりました。エジプトとの国境の砂漠を越えて密入国させられる手口も知られていました。国際的な批判を受けて、イスラエルは人身取引の取り締まりを大幅に強化し、その延長線上で、性の売買の需要そのものを減らすための法律が議論されるようになりました。支援団体は長年、北欧モデルの導入を求める運動を続けてきました。

罰金の件数:増えて、また減った

イスラエル司法省が2024年5月に国連に提出した報告によれば、取り締まりの開始から2023年末までに、性を買った人に対して5091件の罰金が科されました。年ごとの件数を伝える報道によれば、2021年は1384件、2022年は2841件と増えたものの、2023年は866件、2024年は173件と大きく減っています。

件数が減った理由について、報道は、警察の人員が他の任務に回されたことや、取り締まりの優先順位が下がったことを指摘しています。2023年10月以降の戦争の影響もあったと考えられます。法律があっても、取り締まりの体制がなければ効果は限られることを示す数字です。

評価と恒久化

法律の効果については、イスラエルの研究機関による評価研究が行われ、売春に対する社会の認識が変わってきたという結果も報告されました。2025年2月、司法大臣は、この時限立法を恒久的な法律にする方針を示し、さらに売春宿をなくすための取り組みも国会で議論されています。

一方で、セックスワーカーの権利を訴える立場からは、北欧モデルのもとで客が人目を避けるようになり、働く人が客を選んだり安全を確かめたりする余裕がなくなるという批判もあります。これはスウェーデンやフランスなど、北欧モデルを採用したほかの国でも共通して指摘されている点です(スウェーデンの性風俗事情、フランスの性風俗事情)。

売春から抜け出すための支援

イスラエルの法律は、客への罰金とあわせて、売春をやめたい人への支援を強化することをうたっています。住まいや職業訓練、心理的なケア、医療などを提供する支援の枠組みが整えられ、若者が売春に巻き込まれることを防ぐ取り組みも行われています。報道では、10代の若者が売春に巻き込まれる問題も取り上げられており、需要を減らすことと、弱い立場の人を支えることの両方が課題になっています。

中東の中のイスラエル

中東の多くの国では、イスラム法の影響のもとで、売春は厳しく禁止され、売る人も買う人も重く処罰されます。イスラエルは、売る人を処罰せず、買う人に行政上の罰金を科すという、ヨーロッパの北欧モデルに近い制度をとっている点で、周辺国とは大きく異なります。宗教的な価値観よりも、人身取引や男女平等の観点から制度を作った例といえます。

日本との比較

日本の売春防止法は、売る人も買う人も直接は処罰していません。イスラエルは、買う人だけに罰金を科すことで、性の売買の責任を需要の側に求めています。罰金の額は日本円にすると数万円から十数万円程度で、刑事罰ではなく行政上の罰である点も特徴です。罰金の件数の推移は、制度の効果が取り締まりの体制に大きく左右されることを示しています。

旅行者が知っておきたいこと

医師からひとこと

どの国でも、性的な接触ではコンドームの使用が予防の基本です。海外での性的な接触のあとに、排尿時の痛み、性器や口のできもの、発疹などが出たら、帰国後に泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先を伝えてください。

参考資料

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Dr.Taro

性感染症内科医。YouTube「性病医 Dr. Taro」で性の健康について発信中。