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キルギスの性風俗事情:1998年から「罰しない」国、それでも続く警察の一斉摘発

執筆・監修:Dr.Taro(性感染症内科医)|2026年10月9日

中央アジアの山岳国キルギスでは、1998年に売春を処罰する規定がなくなり、成人が性を売ることは、刑事罰の対象にも行政罰の対象にもなっていません。旧ソ連の国々の中では珍しい「非犯罪化」の国です。その後、売春を再び処罰の対象にしようとする法案が何度か出されましたが、セックスワーカーの支援団体などの反対によって実現しませんでした。一方で、警察は別の規定を使って一斉摘発を行い、働く人が恐喝や嫌がらせを受ける問題が続いています。この記事では、キルギスの制度と実態を、中央アジアの報道機関や人権団体の資料をもとに解説します。

法律の基本

処罰を復活させる動きと反対

キルギスでは、2005年に売春を再び犯罪とする法改正案が出され、2012年には売春を行政上の違反とする改正案が出されました。いずれの案も、セックスワーカーの支援団体などが、処罰が働く人をさらに危険な状況に追いやり、HIVの対策にも悪影響を与えると訴えて反対し、成立しませんでした。国際的な人権団体も、2012年の改正案に対して、国会の委員会に見直しを求める書簡を送っています。

「罰しない」のに続く摘発

中央アジアの報道機関の2021年の記事は、キルギスには売春を罰する法律がないにもかかわらず、セックスワーカーが警察による嫌がらせを受け続けていると伝えています。警察は、道徳や精神的な発展に関する大統領令などを根拠に一斉摘発を行い、働く人を連行したり、撮影したり、恐喝したりすることがあるといいます。被害を訴えても、取り下げるよう脅されることもあると報じられています。以前には、セックスワーカーが強制的に健康診断を受けさせられたという報道もありました。

法律で処罰の対象でなくても、警察の運用によって、働く人が事実上の取り締まりの対象になっているのです。

どのくらいの人が働いているのか

同じ記事によれば、2013年の時点で約7100人のセックスワーカーが把握されており、その約3分の2が19歳から30歳の若い世代で、約73%が家族を養っているとされます。データは古いものの、性の売買が多くの女性にとって生活を支える手段になっていることがうかがえます。

非犯罪化と合法化の違い

キルギスの支援団体の代表は、自分たちが求めているのは「合法化」ではなく「非犯罪化」だと説明しています。合法化は、登録や許可などの厳しい規制を設け、その条件を満たせない人、例えば在留資格のない移民などを締め出すことになりがちです。非犯罪化は、処罰の法律をなくし、セックスワークをほかの仕事と同じように扱うことを意味します。この違いは、ニュージーランドとドイツやオランダの制度の違いにも通じる考え方です。

HIV対策の観点から

キルギスの支援団体は、セックスワーカーを対象にしたHIVの予防や検査の取り組みを担ってきました。売春を処罰しないという法律の枠組みは、働く人が支援団体や保健の窓口とつながりやすくするうえで、重要な意味を持っています。処罰を復活させる案に反対してきたのも、処罰によって働く人が医療から遠ざかれば、HIVの対策が後退すると考えたからです。法律を変えずに守ってきた非犯罪化の枠組みを、実際の運用でも生かせるかどうかが問われています。

警察の運用を正し、働く人が安心して相談できる環境を整えることが課題です。

非犯罪化の理念を、現場でどう実現するかが問われています。

今後の動きに注目です。

日本との比較

日本の売春防止法は、売る人を直接は処罰しませんが、売春を「してはならない」と定めています。キルギスは、売春そのものを処罰の対象から外した点で、日本よりも一歩進んだ非犯罪化の国です。それでも、警察の運用によって働く人が取り締まりを受けているという現実は、法律を変えるだけでは働く人を守れないことを示しています。

旅行者が知っておきたいこと

医師からひとこと

どの国でも、性的な接触ではコンドームの使用が予防の基本です。海外での性的な接触のあとは、症状がなくてもHIVや梅毒の検査を受けることをおすすめします。気になる症状が出たら、帰国後に泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先を伝えてください。

参考資料

T
Dr.Taro

性感染症内科医。YouTube「性病医 Dr. Taro」で性の健康について発信中。