CULTURE

レバノンの性風俗事情:1931年の法律で「合法」、でも1975年から新しい許可は出ていない

執筆・監修:Dr.Taro(性感染症内科医)|2026年10月9日

かつて「中東のパリ」と呼ばれた首都ベイルートを持つレバノンは、宗教や宗派が複雑に入り組んだ国です。この国の売春に関する法律は独特で、フランス委任統治時代の1931年に作られた規則によって、許可を受けた売春宿での売春は、法律の上では今も認められています。しかし、1975年に内戦が始まって以来、新しい許可は出されておらず、合法的な売春宿は事実上存在しません。代わりに、「スーパーナイトクラブ」と呼ばれる店と、そこで働く外国人女性のための特別な在留資格が、性の売買の舞台になってきました。この記事では、レバノンの制度を、国際機関や研究機関の資料、報道をもとに解説します。

法律の基本

スーパーナイトクラブと「アーティスト」の在留資格

レバノンでは長年、「スーパーナイトクラブ」と呼ばれる店で、外国人女性が「アーティスト」の在留資格で働いてきました。東ヨーロッパやモロッコ、チュニジアなどから来た女性たちは、ダンサーとして契約して入国しますが、実際には客と店の外で会うことが事実上の仕事になっていると指摘されてきました。

この在留資格には厳しい条件がつけられ、女性たちは雇用主のもとを自由に離れることができず、パスポートを取り上げられたり、移動を制限されたりすることもあったと報告されています。米国務省の人身取引報告書は、この制度が性的搾取や人身取引の温床になっていると繰り返し指摘してきました。キプロスでも同じような「アーティスト」ビザが問題になり、廃止されています。

2016年の大規模な人身取引事件

2016年には、ベイルート近郊で、シリアから連れてこられた多くの女性が売春を強いられていた大規模な人身取引事件が摘発され、大きな衝撃を与えました。シリア内戦によって多くの難民がレバノンに流れ込む中で、弱い立場に置かれた女性たちが搾取の対象になったのです。この事件は、レバノンの人身取引対策の不十分さを浮き彫りにしました。

人身取引の被害者を処罰しない判断

レバノンでは、売春を強いられた人身取引の被害者が、刑法の売春の罪で処罰されるという問題もありました。これに対し、ベイルートの刑事裁判所が、人身取引の被害者は処罰しないという判断を示したことが、法律専門誌で取り上げられています。売春に関わったすべての人を処罰するのではなく、強制されていた被害者を保護するという考え方が、少しずつ広がりつつあります。

経済危機の影

2019年以降、レバノンは深刻な経済危機に陥り、通貨の価値が大きく下がりました。生活が苦しくなる中で、性の売買に関わらざるをえなくなる人が増えているという報道もあります。また、レバノンに多くいるシリア難民の女性や子どもが、搾取の危険にさらされていることも、国際機関から繰り返し警告されています。

「合法」と「違法」の間で

レバノンの制度は、法律の上では許可制の売春を認めながら、実際には許可を出さないことで、事実上の禁止状態を作り出しているといえます。その一方で、スーパーナイトクラブという形で、国が在留資格を与えた外国人女性が性の売買の担い手になってきました。法律の建前と、国の制度が作り出した実態との間に、大きなずれがあるのです。このずれの中で、もっとも弱い立場に置かれたのが、外国から来た女性たちでした。

日本との比較

レバノンの「アーティスト」の在留資格の問題は、日本にとっても他人事ではありません。日本でもかつて「興行」の在留資格で入国した外国人女性が、実際には接客や性的サービスを強いられる問題が国際的に批判され、2005年前後に審査が厳しくされました。特定の仕事のための在留資格が、雇用主に強い力を与え、人身取引の温床になりうることは、多くの国に共通する教訓です。

旅行者が知っておきたいこと

医師からひとこと

どの国でも、性的な接触ではコンドームの使用が予防の基本です。海外での性的な接触のあとに、排尿時の痛み、性器や口のできもの、発疹などが出たら、帰国後に泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先を伝えてください。

参考資料

T
Dr.Taro

性感染症内科医。YouTube「性病医 Dr. Taro」で性の健康について発信中。