CULTURE

ロシアの性風俗事情:売る人には罰金、組織すれば刑事罰、客は処罰されない国

執筆・監修:Dr.Taro(性感染症内科医)|2026年10月9日

ロシアでは、売春は違法とされています。ただし、売る人に対する処罰は刑事罰ではなく行政罰で、数千ルーブル程度の罰金にとどまります。一方で、売春を組織したり、人を売春に引き込んだりすることは刑法で処罰され、客は原則として処罰の対象になりません。この記事では、ロシアの制度を、行政違反法典と刑法の条文、国際機関の資料などをもとに解説します。

法律の基本

旧ソ連時代からの流れ

旧ソ連では、売春は「資本主義の産物」であり、社会主義社会には存在しないものとされていました。実際には売春は存在していましたが、公式には認められず、取り締まりは主に「勤労を避ける生活」などを罰する形で行われていました。1987年に、売春に従事することを行政上の違反とする規定が設けられ、ソ連崩壊後のロシアでも、この考え方が現在の行政違反法典に引き継がれています。

1990年代の経済の混乱期には、性の売買が大都市を中心に急速に広がり、ロシアや旧ソ連の国々から国外へ送られる人身取引も大きな問題になりました。

罰金の小ささと取り締まりの実態

売る人への罰金は、物価の上昇を考えると決して大きな額ではありません。そのため、罰金が売春を減らす効果は限られていると考えられます。一方で、罰金を科されることは警察に記録が残ることを意味し、働く人が警察に暴力などの被害を届け出にくくなる要因になります。支援団体の報告では、警察による恐喝や暴力の被害も指摘されてきました。

HIVとの関係

ロシアは、ヨーロッパの中でHIVの新規感染が多い国の一つとされてきました。注射による薬物使用と並んで、性的な接触による感染も広がっていると報告されています。売春が違法とされ、働く人が医療や支援から遠ざけられやすい状況は、HIVや梅毒などの性感染症の対策を難しくする要因にもなります。国際的な保健機関は、セックスワーカーが差別や処罰を恐れずに検査や治療を受けられる環境を整えることを求めています。

客を処罰しない理由

ロシアの制度は、売る人を処罰する一方で、客は処罰しないという点で、北欧モデルとはちょうど逆の構造です。性の売買の責任を、主に売る側に負わせる考え方だといえます。こうした構造は、旧ユーゴスラビアの法律を受け継いだクロアチアなどにも見られます。客の責任を問わない一方で、売る人だけを処罰する制度は、国際的な人権の考え方からは批判の対象になっています。

需要と供給のどちらを罰するか

性の売買をめぐる各国の制度は、「どちらの側を罰するか」で大きく分けることができます。北欧モデルは買う側を罰し、ロシアやクロアチアは売る側を罰し、リトアニアは両方を罰し、ドイツやオランダはどちらも罰しません。売る側を罰する制度は、性の売買を「売る人の問題」とみなす考え方にもとづいていますが、貧困や搾取の中で売春をしている人を、さらに追い詰めることになりかねません。どの制度が働く人の安全と健康を最もよく守るのかは、国際的にも議論が続いている問いです。

日本との比較

日本の売春防止法は、売春を「してはならない」と定めながら、売る人や買う人を直接は処罰していません。ロシアは、売る人に行政罰を科す点で、日本よりも売る側への処罰が直接的です。一方、売春を組織したり、場所を提供したりすることを処罰する点では、日本と共通しています。

旅行者が知っておきたいこと

医師からひとこと

どの国でも、性的な接触ではコンドームの使用が予防の基本です。HIVの感染が多い地域での性的な接触のあとは、症状がなくても検査を受けることをおすすめします。排尿時の痛み、性器や口のできもの、発疹などが出たら、泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先を伝えてください。

参考資料

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Dr.Taro

性感染症内科医。YouTube「性病医 Dr. Taro」で性の健康について発信中。