CULTURE

世界の性ビジネスの現状:合法化、北欧モデル、非犯罪化、国によってこんなに違う

執筆・監修:Dr.Taro(性感染症内科医)|2026年10月5日

お金を介した性的サービス、いわゆるセックスワークの扱いは、国によって驚くほど違います。全面的に禁止して売る側も買う側も罰する国、国の許可を得た店で合法的に営業できる国、買う側だけを罰する国。どのやり方が正しいのかは、今も世界中で議論が続いています。この記事では、世界の主な法制度のモデルと、その背景にある考え方、公衆衛生の視点からの論点を整理します。

大きく分けて4つのモデル

モデル考え方主な国・地域
全面禁止(犯罪化)売る側も買う側も処罰するアメリカの大部分の州、中国 など
北欧モデル(買春処罰)売る側は処罰せず、買う側と仲介を処罰するスウェーデン、ノルウェー、フランス、アイルランド、カナダ など
合法化・規制国が許可した形態に限って合法とし、登録や営業ルールで管理するドイツ、オランダ、アメリカ・ネバダ州の一部の郡 など
非犯罪化セックスワークを刑法の対象から外し、労働として扱うニュージーランド、ベルギー など

日本は、売春を法律で禁止しつつ売る人・買う人を直接罰する規定はなく、性交を伴わない性的サービスは届出制で認めるという、どのモデルにもきれいには当てはまらない独特の制度です。

北欧モデル:「買う側」を罰する

1999年、スウェーデンは世界で初めて、性を買う行為だけを処罰する法律を施行しました。セックスワークを女性に対する暴力の一形態ととらえ、売る側を被害者として保護し、需要そのものを減らすという考え方です。その後、ノルウェー、カナダ、フランス、アイルランドなどが同様の制度を取り入れました。

支持する側は「人身取引の需要を減らせる」と主張します。一方で、「客が摘発を恐れて人目につかない場所を選ぶようになり、セックスワーカーがかえって危険にさらされる」「健康サービスにつながりにくくなる」という批判もあります。

合法化モデル:ドイツとオランダ

オランダは2000年に売春宿の禁止を撤廃し、自治体の許可制にしました。アムステルダムの「飾り窓」地区は観光名所としても知られています。ドイツは2002年の法律でセックスワークを合法な仕事と位置づけ、2017年にはセックスワーカーの登録や健康相談の受診、事業者の許可を義務づける法律を施行しました。

合法化によって労働者としての権利や安全が守られやすくなるという評価がある一方、「合法市場の陰で人身取引が隠れやすくなった」「登録制度を嫌って非合法の世界にとどまる人が多い」といった指摘もあり、評価は分かれています。

非犯罪化モデル:ニュージーランドとベルギー

ニュージーランドは2003年、セックスワークを刑法の対象から外し、一般の労働法や安全衛生のルールで扱う制度に移行しました。ベルギーも2022年に非犯罪化に踏み切り、その後、セックスワーカーが雇用契約を結んで社会保障を受けられる法律も整備しています。

国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは2016年、セックスワークの非犯罪化を支持する方針を発表しました。人身取引や強制はあくまで犯罪として取り締まりつつ、自分の意思で働く人を処罰しないことで、暴力や搾取から身を守りやすくするべきだという立場です。

人身取引という深刻な問題

どのモデルを選ぶにしても、避けて通れないのが人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)です。国際労働機関(ILO)などが2022年に公表した推計では、2021年のある時点で世界の約630万人が強制的な商業的性的搾取の状況にあり、その大半が女性だとされています。自分の意思で働くセックスワークと、だまされたり脅されたりして強制される性的搾取は、まったく別のものとして考える必要があります。

オンライン化する性ビジネス

近年、性ビジネスの中心はインターネットへと移りつつあります。ライブ配信、有料の会員制コンテンツ、出会いを仲介するアプリなど、形態は多様です。一方で、決済会社がアダルトコンテンツへの決済を制限したり、プラットフォームが規約を急に変えたりして、働く人の収入が突然断たれる問題も起きています。また、本人の同意のない画像の流出や、AIによる偽画像など、新しいリスクも生まれています(性的ディープフェイクは犯罪になる?)。

公衆衛生から見たセックスワーク

性感染症内科医として強調したいのは、法制度がセックスワーカーの健康にも直接影響するという点です。セックスワーカーは、HIVをはじめとする性感染症のリスクが高い集団とされています。処罰を恐れて医療や検査を避けるようになると、感染が見つかりにくくなり、客を含めた社会全体に広がるおそれがあります。WHO(世界保健機関)やUNAIDS(国連合同エイズ計画)は、セックスワーカーが差別なく検査や治療、予防のサービスを受けられる環境づくりを求めています。

海外で性的サービスを利用する前に

参考資料

T
Dr.Taro

性感染症内科医。YouTube「性病医 Dr. Taro」で性の健康について発信中。