香港の性風俗事情:「一楼一鳳」は合法、2人いれば「売春宿」、おとり捜査が問題になる街
中国本土では売春が全面的に禁止されていますが、「一国二制度」のもとで独自の法律を持つ香港では、事情が異なります。香港では、成人がひとりで自分の部屋で性的サービスを提供することは、それ自体は違法ではありません。このような形は広東語で「一楼一鳳(ひとつの部屋にひとりの鳳)」と呼ばれています。一方で、2人以上が同じ場所で働けば「売春宿」とみなされ、公共の場所での勧誘も犯罪です。この記事では、香港の制度と、国際人権団体が問題視した取り締まりの実態を、アムネスティ・インターナショナルの調査報告などをもとに解説します。
法律の基本
- ひとりで部屋で働くこと:成人がひとりで、自分の部屋で性的サービスを提供すること自体は違法ではありません
- 売春宿(風紀営業所):刑事罪行条例は、2人以上が売春のために主に使っている場所を「風紀営業所」と定義し、その経営や管理、貸し出しなどを処罰しています
- 公共の場所での勧誘:公共の場所で「不道徳な目的」のために勧誘することは犯罪です。裁判所はこの「不道徳な目的」を性的サービスの売買と解釈しています
- 売春の収益で生活すること:他人の売春の収益で生活することも処罰されます
- 買うこと:成人の客は、原則として処罰の対象になっていません
ひとりで働くことを強いる法律
「2人以上なら売春宿」という規定は、イギリスの植民地時代から続く考え方で、イギリスやアイルランド、シンガポールにも見られます(イギリスの性風俗事情、シンガポールの性風俗事情)。この規定のもとでは、セックスワーカーは安全のために仲間と一緒に働くことができず、ひとりで見知らぬ客を部屋に迎え入れなければなりません。アムネスティ・インターナショナルは2016年の報告書で、この規定が働く人を孤立させ、強盗や暴力の被害を受けやすくしていると指摘しました。
おとり捜査をめぐる問題
アムネスティの報告書が特に問題にしたのは、警察のおとり捜査のやり方です。報告書は、次のような実態を紹介しています。
- 私服の警察官が客を装って近づき、警察官のほうから性的サービスを求めたのに、セックスワーカーが「勧誘」の罪で逮捕されたという証言が多数あった
- ひとりで働く人の部屋に、2人の私服警察官が訪れて「もうひとり呼んでほしい」と求め、売春宿の経営の罪に問うという手口が報告された
- 香港警察の内部の指針は、売春宿の捜査の過程で、捜査に必要な場合に限って私服の警察官が一定の身体的な接触を受けることを認めていた
- 家族に知らせると脅して自白を迫るなど、強引な取り調べの訴えもあった
アムネスティは香港政府に対し、セックスワーカーを処罰する法律の廃止と、強引な捜査の禁止を求めました。
中国本土から来る人たち
香港で働くセックスワーカーの中には、中国本土から観光などの短期の資格で入境し、性的サービスを提供する人も少なくありません。こうした人は、就労が認められていない在留資格で働いているため、入境管理の違反として逮捕されます。アムネスティの報告書によれば、2014年には、性的サービスに関わったと疑われる中国本土からの4039人が、入境に関する違反で逮捕されました。在留資格の違反が、事実上セックスワークを取り締まる手段になっているのです。
香港の性感染症対策
香港では、政府の衛生署が「社会衛生科」の診療所を運営し、性感染症の検査や治療を無料または低額で提供してきました。セックスワーカーを支援する民間の団体も、健康相談やコンドームの配布、法律相談などを行っています。売春に関わる行為が取り締まりの対象になる中で、こうした窓口が働く人と医療をつなぐ役割を果たしています。
「ひとりなら合法、2人なら違法」という線引きは、働く人の安全よりも、売春を目立たせないことを優先した考え方だといえます。
日本との比較
香港と日本は、売春そのものよりも、勧誘や売春宿、あっせんを処罰する点で似ています。日本の売春防止法も、公衆の目にふれる方法での勧誘や、売春をさせる場所の提供を処罰しています。違いは、香港では「ひとりで部屋で働く」ことが明確に違法ではないとされている点です。日本では、そもそも売春は「してはならない」とされ、合法的に性的サービスを提供できるのは、性交を伴わない範囲で風営法の届出をした業態に限られます。
旅行者が知っておきたいこと
- 香港では公共の場所での勧誘や、売春宿の経営・利用への関与は違法です
- 中国本土とは法律がまったく異なり、本土では売春は全面的に禁止されています(中国の性ビジネス)
- 18歳未満の人との性的な行為は、国外で行った場合でも日本の法律で処罰されることがあります
医師からひとこと
どの国・地域でも、性的な接触ではコンドームの使用が予防の基本です。海外での性的な接触のあとに、排尿時の痛み、性器や口のできもの、発疹などが出たら、帰国後に泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先を伝えてください。