CULTURE

リトアニアの性風俗事情:売る人も買う人も罰金、EUでは珍しい「両方を罰する」国

執筆・監修:Dr.Taro(性感染症内科医)|2026年10月9日

ヨーロッパの国々の売春に関する制度は、売買を合法として管理する国、買う側だけを処罰する北欧モデルの国、売買そのものは処罰しない国などに分かれます。その中でリトアニアは、売る人と買う人の両方を処罰の対象にしている、EUでは数少ない国の一つです。この記事では、リトアニアの制度とその特徴を、欧州議会の調査や欧州委員会の資料などをもとに解説します。

法律の基本

罰金の額は、数十ユーロから数百ユーロ程度とされ、刑事罰ではなく行政罰にとどまります。

「両方を罰する」ことの意味

売る人と買う人の両方を処罰する制度は、性の売買そのものを社会として認めないという考え方にもとづいています。北欧モデルが「売る人は被害者だから処罰しない」とするのに対し、リトアニアの制度は、売る人も違反者として扱う点が大きく異なります。

一方で、被害者と認められた場合には売る人の責任を問わないという例外を設けている点で、強制や搾取の被害を受けた人を守ろうとする配慮もみられます。ただし、被害者として認められるには刑事手続きの中で被害者の地位が認められる必要があるため、実際には多くの人が処罰の対象になりうると指摘されています。

処罰がもたらす問題

売る人が処罰される制度のもとでは、働く人が警察に被害を届け出にくくなります。暴力や盗難の被害を受けても、届け出れば自分が罰金を科されるおそれがあるからです。また、性感染症の検査や治療、支援機関への相談からも遠ざかりやすくなります。こうした問題から、国際的な人権団体や国連の機関は、少なくとも売る人を処罰しないよう求めています。

旧ソ連からの移行と人身取引

リトアニアは1990年に旧ソ連からの独立を宣言しました。独立後の経済の混乱期には、西ヨーロッパなどへの人身取引の送り出し国として問題になったこともあります。性的搾取を目的とした人身取引への対策は、今もリトアニアにとって重要な課題です。

バルト三国の違い

同じバルト三国でも、制度は大きく違います。エストニアは売買そのものを処罰せず、ラトビアは健康カードによる管理制度を持ち、リトアニアは売買の両方を処罰しています。地理的にも歴史的にも近い3つの国が、まったく異なる道を選んでいるのは興味深い点です(エストニアの性風俗事情、ラトビアの性風俗事情)。

罰金で性の売買は減るのか

売る人と買う人の両方を処罰する制度が、実際に性の売買を減らしているのかどうかは、はっきりしていません。罰金の額は比較的小さく、取り締まりがどの程度行われているかによって、効果は大きく変わります。また、取り締まりを避けるために、性の売買がインターネットや個人の部屋など、外から見えにくい場所に移っていくことも考えられます。そうなると、警察や支援機関が、搾取や人身取引の被害者を見つけ出すことが、かえって難しくなるおそれがあります。処罰によって目に見える売買を減らすことと、見えないところで起きている搾取を防ぐことは、必ずしも同じではないのです。

また、売る人が処罰される状況では、働く人が支援機関とつながることも難しくなります。リトアニアの制度は、取り締まりと支援のバランスという点で、多くの課題を抱えているといえるでしょう。

処罰だけに頼らず、働く人が安心して相談できる窓口を整えることが、搾取や人身取引の被害を減らすうえでも欠かせないと考えられています。

日本との比較

日本の売春防止法は、売春を「してはならない」と定めていますが、売る人や買う人を直接処罰する規定はありません(公衆の目にふれる方法での勧誘などは処罰されます)。リトアニアは売買の両方に罰金を科す点で、日本よりも直接的に売買を取り締まる制度だといえます。

旅行者が知っておきたいこと

医師からひとこと

売る人が処罰される国では、働く人が検査や治療を受けにくく、性感染症の対策が難しくなります。どの国でも、性的な接触ではコンドームの使用が予防の基本です。海外での性的な接触のあとに気になる症状が出たら、帰国後に泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先を伝えてください。

参考資料

T
Dr.Taro

性感染症内科医。YouTube「性病医 Dr. Taro」で性の健康について発信中。