CULTURE

ルクセンブルクの性風俗事情:売買は合法、でも「弱い立場の人から買う」客は処罰する小国の選択

執筆・監修:Dr.Taro(性感染症内科医)|2026年10月9日

ベルギー、フランス、ドイツに囲まれた人口70万人足らずの小国ルクセンブルク。この国では、成人どうしの性の売買そのものは合法ですが、売春のあっせんや組織化は犯罪とされています。さらに2018年の法律で、未成年や人身取引の被害者、弱い立場にある人から性を買った客を処罰する規定が設けられました。北欧モデルを全面的に取り入れるのではなく、「買ってはいけない相手」を定めるという選択です。この記事では、ルクセンブルクの制度を、政府の資料や欧州議会の調査をもとに解説します。

法律の基本

2016年の国家行動計画

2016年6月、ルクセンブルクの男女機会均等担当大臣と司法大臣は、売春に関する国家行動計画と、売春の搾取、あっせん、性的目的の人身取引への対策を強化する法案を発表しました。この法案が、2018年2月28日の「売春の搾取、あっせん、性的目的の人身取引への対策を強化する法律」として成立しました。

行動計画は、売春をやめたい人を支援するプログラムや、売春をしている人の健康と安全を守るための支援、客に対する啓発などを柱としています。ルクセンブルク政府は、性の売買をなくすことを長期的な目標に掲げつつも、北欧モデルのような全面的な処罰には踏み込みませんでした。

「買ってはいけない相手」を決めるという考え方

2018年の法律の特徴は、性の購入そのものを処罰するのではなく、相手が未成年や人身取引の被害者、弱い立場の人だった場合に限って、客を処罰する点です。フィンランドやエストニアにも似た規定がありますが、ルクセンブルクは対象を「弱い立場にある人」や「在留資格のない人」まで広げている点が特徴です(フィンランドの性風俗事情、エストニアの性風俗事情)。

この考え方は、客に「相手がどんな状況で働いているのか」に注意を払うことを求めるものです。ただし、客が相手の在留資格や事情を知ることは難しく、実際にどの程度処罰につながっているかについては議論があります。人権団体の中には、北欧モデルに進むべきだという意見もあれば、働く人の権利を守る方向で制度を整えるべきだという意見もあります。

支援の現場

ルクセンブルクでは、赤十字が運営する支援サービスなどが、路上やアパートで働く人を訪ねるアウトリーチ活動を行い、健康相談や性感染症の検査の案内、生活の相談などを提供しています。国の行動計画のもとで、こうした支援団体と行政が連携して、売春の動向を把握し、対策の評価を行う仕組みも設けられました。

国境を越える性の売買

ルクセンブルクは、周辺の国から毎日多くの人が通勤してくる国です。性の売買も国境を越えて行われており、隣国フランスが2016年に性の購入を処罰するようになってからは、フランスの客がルクセンブルクに来るのではないかという懸念も語られてきました。国ごとに制度が違うヨーロッパでは、ある国の規制が隣の国に影響を与えることが避けられません。

小さな国の大きな議論

ルクセンブルクは人口が少なく、性の売買の規模も大きくはありません。それでも、売春をめぐる議論は政治の重要なテーマの一つになってきました。国家行動計画の実施状況については、国会でも質問が出され、評価が求められています。周辺国の制度の変化に影響を受けやすい小国だからこそ、自国の制度をどう設計するかが問われているのです。

日本との比較

日本も、売る人や買う人を直接は処罰せず、あっせんや場所の提供を処罰しています。この点でルクセンブルクと日本の構造は似ています。ただし日本で客が処罰されるのは、主に相手が18歳未満の場合で、人身取引の被害者や弱い立場の人から買った客を処罰する規定はありません。ルクセンブルクの規定は、需要の側の責任を考えるうえで参考になります。

旅行者が知っておきたいこと

医師からひとこと

どの国でも、性的な接触ではコンドームの使用が予防の基本です。海外での性的な接触のあとに、排尿時の痛み、性器や口のできもの、発疹などが出たら、帰国後に泌尿器科や性感染症内科を受診し、渡航先を伝えてください。

参考資料

T
Dr.Taro

性感染症内科医。YouTube「性病医 Dr. Taro」で性の健康について発信中。