韓国の性売買特別法とは:売る側も買う側も処罰する国で、性産業はどう変わったか
お隣の韓国では、2004年に「性売買特別法」と呼ばれる法律が施行され、性を売る側も買う側も処罰の対象になりました。日本とは大きく異なる厳しい制度です。しかし、法律の施行から20年以上がたった今も、韓国の性産業はなくなっておらず、形を変えて存在し続けています。この記事では、性売買特別法が生まれた経緯と中身、その後の変化、そしてこの法律をめぐる議論を解説します。
きっかけは集娼村の火災
韓国には、かつて「集娼村」と呼ばれる売春街が各地にありました。性売買特別法が制定される直接のきっかけになったのは、2000年と2002年に南西部の群山(クンサン)市の売春街で起きた火災です。いずれの火災でも、建物に閉じ込められていた女性たちが逃げられずに亡くなりました。窓には鉄格子がはめられ、扉は外から施錠されていたことが明らかになり、借金によって女性たちが監禁同然の状態で働かされていた実態が、社会に大きな衝撃を与えました。
この事件をきっかけに、女性団体などが法整備を強く求め、2004年に性売買特別法が施行されました。
性売買特別法の中身
性売買特別法は、主に次の2つの法律からなります。
- 性売買処罰法:性を売る行為、買う行為、そして斡旋や場所の提供、性売買を目的とした人身売買を処罰します。買う側も売る側も処罰の対象になります
- 被害者保護法:強制されて性売買をさせられた人を「被害者」として処罰せず、保護や自立のための支援を行います
注目されたのは、性売買をさせるための前借金などの債権を、法律上無効としたことです。借金で女性を縛りつける仕組みそのものを断ち切ろうとしたのです。
法律の施行後に起きたこと
集娼村の消滅
警察の集中的な取り締まりと、都市の再開発が重なり、ソウルなど各地の集娼村は次第に姿を消していきました。
性産業の「地下化」と多様化
一方で、性産業そのものがなくなったわけではありません。マッサージ店、理容店、カラオケ店、「ルームサロン」と呼ばれる接待飲食店の一部、そしてインターネットや出会い系アプリを通じた個人間の取引など、見えにくい形に移っていったと指摘されています。取り締まりの目が届きにくくなったことで、かえって働く人の安全や健康が守られにくくなったという批判もあります。
海外への流出
国内の取り締まりが強まったことで、日本、オーストラリア、アメリカなどの海外の性産業で働く韓国人女性が増えたとも指摘されています(海外の風俗への出稼ぎ)。
当事者の抗議と憲法裁判所の判断
性売買特別法の施行直後には、集娼村で働いていた女性たちが「生きる手段を奪われる」として、大規模な抗議集会を開きました。売る側も処罰することが、働く人たちをかえって追い詰めているという声は、その後も続きました。
この「売る側も処罰する」規定については、憲法違反ではないかという訴えが起こされましたが、韓国の憲法裁判所は2016年、この規定を合憲と判断しました。ただし、裁判官の意見は分かれ、売る側の処罰には反対する意見もありました。
北欧モデルとの違い
スウェーデンなどが採用する「北欧モデル」は、買う側だけを処罰し、売る側は処罰しません(世界の性ビジネスの現状)。韓国の制度は、強制された人は「被害者」として保護する一方で、自発的に売る人は処罰の対象とする点で、北欧モデルとは異なります。韓国国内でも、売る側の処罰をやめて北欧モデルに近づけるべきだという議論が続いています。
日本との比較
日本の売春防止法は、売春を禁止しながらも、売る人・買う人を直接処罰する規定を持たず、性交を伴わない性的サービスは風営法の届出制で認めています(日本の風俗はなぜ合法?)。売る側も買う側も処罰する韓国の制度と比べると、日本の制度がいかに独特かがよく分かります。どちらの制度にも、働く人を守りきれていないという課題があり、正解のない問題であることがうかがえます。
韓国を訪れる日本人へ
- 韓国では性を買う行為も処罰の対象です。外国人も例外ではありません
- マッサージ店などでの性的サービスの勧誘に応じれば、法律違反になるだけでなく、ぼったくりや恐喝のトラブルにも巻き込まれかねません
- 性的な接触があった場合は、性感染症のリスクも忘れずに
「被害者」と「処罰対象」の境目
性売買特別法では、強制された人は被害者として保護されますが、実際には、自分が強制されたことを証明するのは簡単ではありません。借金や脅しで心理的に支配されていた場合でも、自発的に働いていたと判断されれば、処罰の対象になる可能性があります。この境目のあいまいさが、支援を必要とする人を遠ざけているという指摘もあります。
医師からひとこと
性売買が厳しく処罰される社会では、働く人も客も、検査や治療のために医療機関を受診することをためらいがちです。それが、性感染症が見えないところで広がる原因になります。どこの国であっても、性的な接触のあとに、排尿時の痛み、性器や口のできもの、発疹などの症状が出たら、ためらわずに泌尿器科や性感染症内科を受診してください。医療機関には守秘義務があります。症状がなくても、適切なタイミングでの検査をおすすめします。