CULTURE

「売春ではない」性ビジネスの世界:売買春を禁じた国で、性の需要はどこへ向かうのか

執筆・監修:Dr.Taro(性感染症内科医)|2026年10月9日

世界の多くの国は、売春を禁止したり、厳しく制限したりしています。しかし、法律で禁じても、性的なサービスを求める人がいなくなるわけではありません。そのため多くの国で、「売春にはあたらない」形をとった性のビジネスが生まれてきました。日本の性風俗店も、その代表的な例です。この記事では、これまでの「各国の性風俗事情」シリーズで調べてきた内容をもとに、売買春が禁止・制限された社会で、性の需要がどのような形のビジネスに向かってきたのかを整理します。

日本:「性交」で線を引くという仕組み

日本の売春防止法は、「売春」を「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」と定義しています(2条)。そして「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない」としながら(3条)、売る人や買う人を直接処罰する規定は置いていません。処罰されるのは、公衆の目にふれる方法での勧誘や、売春の周旋、場所の提供などです。

この定義のため、性交を伴わない性的なサービスは「売春」にあたりません。手や口などによるサービスを提供するファッションヘルスやデリバリーヘルス、ピンサロなどは、風営法の届出をすれば合法的に営業できます(日本の風俗の業態)。さらにソープランドは、法律上は「個室付浴場」という入浴の施設で、個室の中で起きることは「客と従業員の自由恋愛」という建前のもとで、長く営業を続けてきました(ソープランドの仕組み)。

「性交」という一点で線を引き、その手前を合法の産業として認めるという日本の仕組みは、世界的に見ても珍しいものです。

韓国:取り締まりのたびに形を変える「風船効果」

韓国では、2004年の性売買特別法によって全国の集娼村が閉鎖されました(韓国の性売買特別法)。ところが、韓国の学術誌や新聞は、その後、休憩室、リップカフェ、キスバン(キス部屋)など、性的な接触を伴う新しい業態が次々と生まれたと報告しています。さらに、ホテルやオフィステル(住居兼事務所)での、インターネットやスマートフォンを使った取引も広がりました。一か所を押さえると別の場所がふくらむことから、「風船効果」と呼ばれています。法律が想定していない新しい業態は、取り締まりが難しいとも指摘されています。

東南アジアと中国:別の業態を装う

売春が禁止された多くの国で最もよく見られるのが、マッサージ店やスパ、カラオケ、理髪店、サウナなど、別の業態を装う形です。ベトナム、マレーシア、スリランカ、カンボジアなどの記事でも、こうした店が摘発されていることを紹介しました(ベトナムの性風俗事情、マレーシアの性風俗事情)。中国でも、カラオケのホステスやマッサージ店を入り口にした性の売買が、取り締まりのたびに姿を変えてきました(中国の性ビジネス)。日本と違って、これらの国では性交を伴わないサービスも違法とされることが多く、「装う」こと自体が取り締まりを避けるための手段になっています。

イスラム圏:結婚の形をとる

婚姻外の性的関係そのものが処罰されるイスラム教の国々では、結婚の制度が使われることがあります。シーア派の「一時婚」は、期間と対価を決めて結婚する制度で、性の売買との境目が議論されてきました。エジプトでは、湾岸諸国の裕福な男性が短期間だけ結婚する「夏の結婚」が社会問題になっています(エジプトの性風俗事情)。法律の上では結婚であるため、取り締まりが難しいのです。

「見る」「接する」サービス

性交をせず、見たり、近くで接したりするだけのサービスも、各国にあります。ストリップ、ラップダンス、のぞき部屋、ホステスのいるバー、そしてインターネットのライブチャットなどです。アメリカでは、売春がほぼすべての州で違法である一方、ストリップクラブは多くの地域で合法的に営業しています(アメリカの性風俗事情)。ただし、アイスランドのようにストリップクラブまで禁止した国もあり、どこまでを認めるかは国によって大きく異なります。

「交際」という形

一回ごとの性の売買ではなく、金銭的な支援を伴う「交際」という形をとるものもあります。日本のパパ活や、英語圏のシュガーデーティングがその例です(パパ活の実態とリスク)。キューバでは、外国人観光客との交際を通じて贈り物やお金を得る「ヒネテラ」が知られています。交際の形をとるため、売買かどうかの境目があいまいで、トラブルや搾取が見えにくいという問題があります。

国境を越える

自分の国で性を買うことが禁止されると、合法な近隣の国へ出かける人も出てきます。北欧の国々が買う側を処罰するようになってからは、近隣国への「越境」が懸念されてきました。ノルウェーは、これを見越して、国民と永住者が国外で性を買うことも処罰の対象にしています。

道具とデジタルの世界

性的なサービスを人から買うのではなく、セックストイやラブドール、アダルト動画などで欲求を満たす人も増えています。こうした市場は、売買春の規制とは別の領域にあり、多くの国で拡大しています(セックストイの種類)。

医師からひとこと

性的な欲求の強さや、その満たし方は人によってさまざまで、性的なサービスを利用しなければならないものではありません。セルフプレジャー(マスターベーション)は、体に害のない、安全な方法です(マスターベーションの誤解)。性的なサービスを利用する場合は、その国の法律を守り、コンドームを使ってください。性交を伴わないサービスでも、オーラルセックスで梅毒や淋菌、クラミジアがうつることがあります(オーラルセックスと性感染症)。排尿時の痛みや、性器や口のできもの、発疹などが出たら、泌尿器科や性感染症内科を受診してください。

参考資料

T
Dr.Taro

性感染症内科医。YouTube「性病医 Dr. Taro」で性の健康について発信中。